さりげなく存在を伝えるつながり感通信
- yamada134
- 2001年12月1日
- 読了時間: 3分
大リーグでのイチロー選手の活躍は個人的にも嬉しいニュースだが、これを除けば最近は暗いニュースばかりがやたらと多い。米国を襲った悲惨なテロによって世界中が震撼し、その後のアフガニスタン情勢や炭疽菌事件の広がりに、世界中が固唾(かたず)を呑んでいる。日本でも、回復する気配のない経済不況に加えて、狂牛病騒ぎである。TVをBGM代わりにしているながらTVの常習犯ではあるが、最近のTVニュースには少々嫌気が差し、チャンネルを変えたくなることも度々である。
気晴らしに外に出ると、こんな時でも自然が気分を和らげてくれる。今年の秋は気候にも恵まれて、こぼれ種から2mを超えて大きく育ったコスモスの群生が満開だし、その根元にはすでにレンゲが密生している。家庭菜園の冬野菜も、ダイコン、白菜からホウレンソウに至るまで、どれも順調に育っている。豊かな自然に接していると、暗いニュースでムシャクシャした気分も晴れてくるから不思議なものだ。
そして、こんな自分を観(み)ていると、人間は周囲環境から大きな影響を受ける感性(感覚および感情)の動物だとの思いを強くする。人間の人間たる所以は理性にあると言われるが、人間がより人間らしくあるために重要なのは感性かも知れない。
このような観点から、コミュニケーション技術についても、人間の感性に重きを置いた研究が進められている。最近では、電話や電子メールを凌駕する感性豊かなコミュニケーションをめざして、人の存在をさりげなく伝える“つながり感通信”の実証実験が行われている。
“つながり感通信”というと、テレパシーか何かと勘違いされそうだが、もちろん、そんな非現実的な話ではない。二階から足音や物音が聞こえれば、直接に言葉を交わさなくても何をしているのかが大体は想像できるが、これを通信で実現しようとするのが“つながり感通信”である。人の存在情報や環境情報など、人が日常生活において無意識のうちに発している“手がかり情報”を常に通信し合うことで、遠く離れている相手が身近に感じられ、安心感や幸福感が醸成できるという新しいコミュニケーションスタイルの提案である。
実証実験は、電脳村として有名な富山県山田村の協力を得て、山田村とそこから遠く離れて暮らしている家族(両親と息子夫婦など)を対象として行われている。具体的には、超音波(距離)センサと赤外線(熱源)センサを内蔵した“Family Planter”と呼ばれる端末を用いて、その近くにいる人の存在情報を検知し、光や動きとして、相手側の“Family Planter”端末に伝えている。存在情報をさりげなく伝えることで、“つながり感”が醸成され、あたかも同居しているような感覚が得られるのかどうか。社会科学的にも大きな関心が持たれている。
コミュニケーションは人間社会のすべての基本である。最近では、毎日のように電子メールを使っているが、相手の雰囲気や感情などの“手がかり情報”まではなかなか伝わってこない。“つながり感通信”を手始めとする感性豊かなコミュニケーションの実現が、新しいライフスタイルを創造するだけでなく、ひいては、豊かで平和な人間社会の実現にも貢献することを祈りたい。
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